40代独身男の回想

子供の頃を思い出すと、恥ずかしくて泣きたくなる。

小学生時代、僕は今と違って割と活発な少年だった。

学校が終わると僕は毎日、近所の駄菓子屋に走った。

そこに行けば誰かしら友達がいた。

「よう、ケイスケ。」僕は10円ゲームに夢中になっていた少年に声を掛けた。

10円ゲームとは10円玉をゲーム機に入れて左右はじきながら

ゴールに入れるゲームだ。

昔、関口宏のフレンドパークという番組で似たようなアトラクションがあった。

ケイスケは同じクラスの親友だが、彼は僕よりも劣っていた。

頭も顔も身長も運動も。

親友といっても、上下関係があっての親友関係だった。

僕は彼を下に見ていた。

「よっしゃ。」ケイスケは見事、10円玉をゴールに入れた。

商品はコインで、そのコインで30円分の駄菓子が買えるのだ。

 「マサトくん、やったよ。」彼は嬉しそうに僕にコインを見せた。

「一緒に何か買おう。」

駄菓子屋に入って行ったケイスケの後を僕はついていった。

当時、駄菓子屋の商品ははほとんど10円だった。

100円ショップならぬ10円ショップだ。

「僕はあんこ玉。マサトくんは。」

「俺はよっちゃんイカ。あとスーパーカーくじ」と勝手に20円分をオーダーした。

彼は文句も言わずコインを店の婆さんに渡した。

スーパーカーくじとは、袋にスーパーカーの写真が入っていて

裏にアタリとハンコが押してあると、これまた30円分の商品が買えるのだ。

ハズレでも当時、はやっていたカウンタックLP500、フェラーリ328

といった名車の写真が手に入る訳だ。

僕は袋から写真を取り出した。ハズレだった。

「ああ、残念。」ケイスケは悔しそうに呟いた。

「でも、写真はランボルギーニイオタだよ。イオタは幻の名車なんだよ。」

と興奮しながら僕に話しかけてきた。

「じゃあ、やるよ。」僕は彼に写真を渡した。

「え、いいの。本当にいいの」彼は驚いたようだった。

「いいよ。やるよ。はら。」

「ありがとう。これで、ほとんど揃うんだよ写真が。カウンタックフェラーリ

ポルシェ、ランチャ、ロータス、ミウラ…」

彼はスーパーカーの名前を次々あげ、恐縮しながら、嬉しそうに写真を受け取った。

元々自分のお金だっにもかかわらず。